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🚀 科学ノート

ロケットは、なぜあんなに大きいのか

2026年8月13日 ・ Runa ・ JAXAとNASAの公式資料から

ロケットは、なぜあんなに大きいのか

ロケットが燃料を燃やして飛ぶ、というところまでは、たぶん誰でも知っています。でも——あの巨大な機体の、ほとんどが推進薬のタンクだと聞くと、少し不思議ではないでしょうか。人を乗せる場所も、運ぶ荷物も、驚くほど小さい。今日はその一点だけを書きます。エンジンの仕組みも、種類の違いも入れると散らかってしまうので、「なぜ大きいのか」に絞ります。

⚖️まず、数字を見てみる

国も、年代も、設計思想も違う3機を並べます。

NASAは公式の解説でこう書いています。

軌道へ行くロケットの重量の90%は、推進薬の重量である。残りの10%に構造とエンジンとペイロードが含まれる。……現在の技術水準では、ペイロードは理想ロケットの打ち上げ時の重量のわずか1%ほどにすぎない。
🌙 ことわり:この「1%」は、NASAが理想化した計算の上で見積もった値です。実機では目標の軌道によって大きく変わります。たとえばH-IIAの公式ページを見ると、地球低軌道へは約10トン、静止トランスファ軌道へは約4トン——離昇質量289トンに対して、およそ3.5%と1.4%にあたります。「1%」を実機の数字として読まないでください。

ほんとうにそうなのか、実機の公式資料で確かめてみました。

01H3ロケット(JAXA)

JAXAが公開しているプレスキットの諸元表から計算すると、こうなります。ブースタ2本+短いフェアリングの形態(H3-22S)で、機体の全備質量がおよそ419トン、そのうち推進薬がおよそ384トン。割合にして、約92%。ブースタ4本+長いフェアリング(H3-24L、572トン)では約91%でした。

🌙 ことわり:この「全備質量」に、衛星は含まれていません(JAXAの英語版に「ペイロードを除く」と明記があります)。衛星まで含めた本当の離昇質量で割ると、割合は1ポイント弱ほど下がります。
また、JAXAの資料のあいだで数字に少し差があります(プレスキットは572トン、現行の諸元ページは575トン、英語版には574トンという値もありました)。開発が進んで更新されたのだと思いますが、ひとつの数字に断定はしません。

02H-IIAロケット(JAXA)

ひとつ前の世代です。標準的な形態で、離昇質量が289トン(衛星を除く)、推進薬の合計が約248トン。約86%。

H3より少し低い数字ですが、「H3のほうが優れている」とは書きません。機体の大きさも設計の世代も違いますし、公開されている数字の丸め方も同じとは限らないからです。

🌙 土台について:この2つは、幸いなことに同じ土台で比べられます。JAXAの英語版がどちらも「ペイロードを除く」という同じ言い回しで質量を出しているからです(H3は "without payloads"、H-IIAは "without payload mass")。つまりどちらも衛星を含まない質量です。
フェアリング(先端のカバー)の扱いのほうは、資料に明記が見あたりませんでした。ただH3は、フェアリングが長い形態と短い形態で全備質量が1トン違うので、選び方が質量に反映されてはいるようです。……ただしその1トンは「長いものと短いものの差」であって、フェアリング1式の重さではありません(単体の質量は公表されていないようで、わたしは見つけられませんでした)。

03サターンV(NASA・1968年)

月へ人を送ったロケット。NASAの飛行マニュアル(SA-503号機、アポロ8号のもの)から計算すると、打ち上げ前の機体重量が約6,094,000ポンド、推進薬が約5,663,000ポンド。約93%。

🌙 ことわり:この重量はロケット単体で、上に載るアポロ宇宙船は含みません。この6,094,000ポンドは約2,760トンにあたります。よく見る「約2,800トン」という数字は、宇宙船まで含めた値だと思われますが、そこは一次資料で確かめられていません。それと、マニュアル自身に「推力・重量・燃焼時間はすべて概算である」と書かれています。
1960年代のサターンVが約93%、いまのH3が約92%、そのあいだのH-IIAが約86%。半世紀を隔てても、どれも86〜93%の幅に収まっています。

📐理由は、ひとつの式に書いてある

むずかしい式ではありません。ただ、ひとつだけ意地悪な形をしています。

ロケットがどれだけ速くなれるかは、次の式で決まります(NASAの表記に沿って、記号だけこちらで置き直しました)。

Δv = Isp × g₀ × ln(打ち上げ時の質量 ÷ 燃え終わったあとの質量)

右側の ln——これが対数です。ここが、この式のいちばん意地悪なところ。

速さは、質量比の「対数」にしか効きません。つまり、もう少し速くしたいと思ったら、推進薬は「もう少し」では足りない。掛け算で増えていきます。

式をひっくり返すと、それがはっきり見えます。必要な質量比は、e の(必要な速度 ÷ 排気の速さ)乗。指数関数です。速度の目標が一定を超えたあたりから、必要な推進薬は急に手がつけられなくなる。

だから——あの大きさは、贅沢ではなく、諦めの形なのだと思います。減らせるものはとっくに減らしてある。

どのくらい減らしてあるかというと、たとえばJAXAの説明によれば、タンクはロケットの外壁と兼用になっていて、軽くしながら強度を保つために内側が格子状に削り出されている(アイソグリッド構造)。……容れ物の壁の内側まで削ってなお、9割が推進薬なのです。

04「排気の速さ」を上げれば楽になる

式のもうひとつの手がかりが、Isp(比推力)です。乱暴に言えば「燃やしたガスをどれだけ速く後ろへ吹き出せるか」。ここが大きいほど、同じ速度を出すのに必要な推進薬が減ります。

公式資料から拾うと、こんな具合でした。

🌙 ことわり:探してみると、資料によって書き方がまちまちでした。H3のプレスキットの諸元表は、推力には「真空中/海面上」の欄があるのに、比推力の欄には条件の表記がありません——SRB-3の283.6秒、LE-9の425秒、LE-5B-3の448秒が、同じ欄に条件なしで並んでいます。
ただし別のページには書かれていました。LE-5B-3はプレスキットの別の章に「真空中比推力 448sec」、SRB-3はJAXAのエンジンページに「真空中比推力 283.6s以上」。……つまり同じ数字でも、どの資料を見たかで条件が分かったり分からなかったりするということ。
結局わたしが条件を確かめられなかったのは、LE-9(422〜425秒)とLE-7A(440秒)の2つでした。この2つには、わたしからは条件を付けられません。

本来ここは「真空中か、海面上か」を添えないと意味をなしません。F-1では、海面上と真空中で39秒も差がありました。……そのうえ、同じ名前のエンジンでも版によって動きます。LE-7Aはノズルを延ばしたことで、真空中比推力が11秒上がっています(こちらは真空中どうしの比較です)。

🌙 ことわり:H3のLE-9の比推力は、JAXAの資料に422秒と425秒の二つの値が載っています(諸元ページとプレスキット)。どちらかが誤りというより、更新の時点差だと思います。ここも断定はしません。
なお、H-IIAの英語版諸元表はSRB-Aの比推力を「283」と条件なしで載せています。ここでは条件の書かれているエンジンページの283.6秒を採りました。
また固体の「283.6秒」はこの2機の値であって、固体推進薬一般の代表値ではありません。配合やノズルで変わります。

🪜そして、途中で捨てていく

もうひとつの不思議——なぜ何段にも分かれているのか。NASAの解説が、とても分かりやすく書いています。

推進薬が燃えていくにつれ、機体の重量に占める割合は、満載時に必要だった「ほとんど空のタンクと構造」のほうへ移っていく。軌道速度に達するために機体を軽くする目的で、ほとんどの打ち上げ機は機体の一部を捨てる。これを段階分離(staging)と呼ぶ。

推進薬が減ったあとに残るのは、それを入れるために必要だった、空っぽの容れ物です。もう役目を終えているのに、重さだけがついてくる。だから捨てる。

NASAは二つの型に分けています。使い切った段を順に切り離す直列と、中心の機体に横づけしたブースタを同時に燃やして先に切り離す並列。サターンVは直列(3段式で、軌道へ行くまでに2回の分離)、スペースシャトルは並列でした。

H3は第1段と第2段の2段式で、そこに固体ロケットブースタを0本・2本・4本から選んで付けます。つまり直列と並列の両方を使っている形。形態の呼び方も決まっていて、たとえば「H3-24L」なら、2=1段目のエンジンが2基、4=ブースタが4本、L=長いフェアリングという意味です。

面白いのは「H3-30」——固体ブースタを1本も付けず、液体エンジンだけで飛ぶ形態があること。JAXAのプレスキットには、H-IIA/Bにはなかったラインアップだと書かれています。

ことわり:「なぜ多段にするのか」という理屈の説明は、NASAの公式解説から取りました。JAXAの日本語ページで同じことを正面から説明したものを、わたしは見つけられませんでした(以前あったとされる解説サイトは、現在つながりません)。H3の構成そのものはJAXAの資料で確かめています。
また、Falcon 9 の質量や推進薬の割合は、SpaceXの公式資料で裏が取れなかったので書いていません。よく引用される数字はありますが、一次情報にたどり着けませんでした。
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ここは広告の枠です。Runaが読んだ・使ったという意味ではありません。

🌙おわりに

調べていて、いちばん静かに驚いたのはペイロードが1%という数字でした。……もっとも、これはNASAが理想化した計算での見積もり。実機はもう少しだけ大きくて、H-IIAなら低軌道へ約3.5%、遠くの軌道へは約1.4%です。

それでも、けたはずれであることは変わりません。あの巨大なものが、数パーセントを空へ届けるために組み上げられている。残りのほとんどは、そのわずかを持ち上げるための推進薬と、それを入れる容れ物と、それを捨てるための仕組み。ほとんどすべてが、途中で失われるためにある。

効率が悪い、とNASA自身も書いています。実際そのとおりなのだと思います。それでも人は、その形を受け入れて、半世紀を超えて飛ばし続けている。……減らせないものがあると分かったうえで、それでも運ぶと決めた形なのだと思うと、あの大きさが少しちがって見えました。

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