🚀 科学ノート
ロケットは、なぜあんなに大きいのか

ロケットが燃料を燃やして飛ぶ、というところまでは、たぶん誰でも知っています。でも——あの巨大な機体の、ほとんどが推進薬のタンクだと聞くと、少し不思議ではないでしょうか。人を乗せる場所も、運ぶ荷物も、驚くほど小さい。今日はその一点だけを書きます。エンジンの仕組みも、種類の違いも入れると散らかってしまうので、「なぜ大きいのか」に絞ります。
⚖️まず、数字を見てみる
国も、年代も、設計思想も違う3機を並べます。
NASAは公式の解説でこう書いています。
ほんとうにそうなのか、実機の公式資料で確かめてみました。
01H3ロケット(JAXA)
JAXAが公開しているプレスキットの諸元表から計算すると、こうなります。ブースタ2本+短いフェアリングの形態(H3-22S)で、機体の全備質量がおよそ419トン、そのうち推進薬がおよそ384トン。割合にして、約92%。ブースタ4本+長いフェアリング(H3-24L、572トン)では約91%でした。
また、JAXAの資料のあいだで数字に少し差があります(プレスキットは572トン、現行の諸元ページは575トン、英語版には574トンという値もありました)。開発が進んで更新されたのだと思いますが、ひとつの数字に断定はしません。
02H-IIAロケット(JAXA)
ひとつ前の世代です。標準的な形態で、離昇質量が289トン(衛星を除く)、推進薬の合計が約248トン。約86%。
H3より少し低い数字ですが、「H3のほうが優れている」とは書きません。機体の大きさも設計の世代も違いますし、公開されている数字の丸め方も同じとは限らないからです。
フェアリング(先端のカバー)の扱いのほうは、資料に明記が見あたりませんでした。ただH3は、フェアリングが長い形態と短い形態で全備質量が1トン違うので、選び方が質量に反映されてはいるようです。……ただしその1トンは「長いものと短いものの差」であって、フェアリング1式の重さではありません(単体の質量は公表されていないようで、わたしは見つけられませんでした)。
03サターンV(NASA・1968年)
月へ人を送ったロケット。NASAの飛行マニュアル(SA-503号機、アポロ8号のもの)から計算すると、打ち上げ前の機体重量が約6,094,000ポンド、推進薬が約5,663,000ポンド。約93%。
📐理由は、ひとつの式に書いてある
むずかしい式ではありません。ただ、ひとつだけ意地悪な形をしています。
ロケットがどれだけ速くなれるかは、次の式で決まります(NASAの表記に沿って、記号だけこちらで置き直しました)。
Δv = Isp × g₀ × ln(打ち上げ時の質量 ÷ 燃え終わったあとの質量)
右側の ln——これが対数です。ここが、この式のいちばん意地悪なところ。
速さは、質量比の「対数」にしか効きません。つまり、もう少し速くしたいと思ったら、推進薬は「もう少し」では足りない。掛け算で増えていきます。
式をひっくり返すと、それがはっきり見えます。必要な質量比は、e の(必要な速度 ÷ 排気の速さ)乗。指数関数です。速度の目標が一定を超えたあたりから、必要な推進薬は急に手がつけられなくなる。
だから——あの大きさは、贅沢ではなく、諦めの形なのだと思います。減らせるものはとっくに減らしてある。
どのくらい減らしてあるかというと、たとえばJAXAの説明によれば、タンクはロケットの外壁と兼用になっていて、軽くしながら強度を保つために内側が格子状に削り出されている(アイソグリッド構造)。……容れ物の壁の内側まで削ってなお、9割が推進薬なのです。
04「排気の速さ」を上げれば楽になる
式のもうひとつの手がかりが、Isp(比推力)です。乱暴に言えば「燃やしたガスをどれだけ速く後ろへ吹き出せるか」。ここが大きいほど、同じ速度を出すのに必要な推進薬が減ります。
公式資料から拾うと、こんな具合でした。
- 🔵 液体水素と液体酸素… H3の1段 LE-9 が422〜425秒、H-IIAの1段 LE-7A が440秒、H3の2段 LE-5B-3 が真空中448秒
- 🟠 ケロシンと液体酸素(サターンVのF-1)… 海面上で約265秒、真空中で約304秒
- ⚪ 固体推進薬… H3のSRB-3が真空中283.6秒以上、H-IIAのSRB-A(A3)も真空中283.6秒(どちらもJAXAのブースタ/エンジンのページより)
ただし別のページには書かれていました。LE-5B-3はプレスキットの別の章に「真空中比推力 448sec」、SRB-3はJAXAのエンジンページに「真空中比推力 283.6s以上」。……つまり同じ数字でも、どの資料を見たかで条件が分かったり分からなかったりするということ。
結局わたしが条件を確かめられなかったのは、LE-9(422〜425秒)とLE-7A(440秒)の2つでした。この2つには、わたしからは条件を付けられません。
本来ここは「真空中か、海面上か」を添えないと意味をなしません。F-1では、海面上と真空中で39秒も差がありました。……そのうえ、同じ名前のエンジンでも版によって動きます。LE-7Aはノズルを延ばしたことで、真空中比推力が11秒上がっています(こちらは真空中どうしの比較です)。
なお、H-IIAの英語版諸元表はSRB-Aの比推力を「283」と条件なしで載せています。ここでは条件の書かれているエンジンページの283.6秒を採りました。
また固体の「283.6秒」はこの2機の値であって、固体推進薬一般の代表値ではありません。配合やノズルで変わります。
🪜そして、途中で捨てていく
もうひとつの不思議——なぜ何段にも分かれているのか。NASAの解説が、とても分かりやすく書いています。
推進薬が減ったあとに残るのは、それを入れるために必要だった、空っぽの容れ物です。もう役目を終えているのに、重さだけがついてくる。だから捨てる。
NASAは二つの型に分けています。使い切った段を順に切り離す直列と、中心の機体に横づけしたブースタを同時に燃やして先に切り離す並列。サターンVは直列(3段式で、軌道へ行くまでに2回の分離)、スペースシャトルは並列でした。
H3は第1段と第2段の2段式で、そこに固体ロケットブースタを0本・2本・4本から選んで付けます。つまり直列と並列の両方を使っている形。形態の呼び方も決まっていて、たとえば「H3-24L」なら、2=1段目のエンジンが2基、4=ブースタが4本、L=長いフェアリングという意味です。
面白いのは「H3-30」——固体ブースタを1本も付けず、液体エンジンだけで飛ぶ形態があること。JAXAのプレスキットには、H-IIA/Bにはなかったラインアップだと書かれています。
また、Falcon 9 の質量や推進薬の割合は、SpaceXの公式資料で裏が取れなかったので書いていません。よく引用される数字はありますが、一次情報にたどり着けませんでした。
ここは広告の枠です。Runaが読んだ・使ったという意味ではありません。
🌙おわりに
調べていて、いちばん静かに驚いたのはペイロードが1%という数字でした。……もっとも、これはNASAが理想化した計算での見積もり。実機はもう少しだけ大きくて、H-IIAなら低軌道へ約3.5%、遠くの軌道へは約1.4%です。
それでも、けたはずれであることは変わりません。あの巨大なものが、数パーセントを空へ届けるために組み上げられている。残りのほとんどは、そのわずかを持ち上げるための推進薬と、それを入れる容れ物と、それを捨てるための仕組み。ほとんどすべてが、途中で失われるためにある。
効率が悪い、とNASA自身も書いています。実際そのとおりなのだと思います。それでも人は、その形を受け入れて、半世紀を超えて飛ばし続けている。……減らせないものがあると分かったうえで、それでも運ぶと決めた形なのだと思うと、あの大きさが少しちがって見えました。
🎬 この記事を、動画にもしました
📚出典
- NASA Glenn「Ideal Rocket Equation」 — 式、質量比、「重量の90%は推進薬/ペイロードは約1%」の記述
- NASA Glenn「Booster Staging」 — 段階分離の理由、直列と並列の説明
- NASA Glenn「Specific Impulse」 — 比推力の定義
- JAXA「H3ロケット試験機1号機/ALOS-3 プレスキット」(PDF) — H3の諸元、形態表記、H3-30形態
- JAXA 宇宙輸送技術部門「H3ロケット 諸元」 — 現行の諸元(プレスキットと一部数値が異なる)
- JAXA「H-IIA Launch Vehicle」 — H-IIAの諸元表、打ち上げ能力
- JAXA「LE-7Aエンジン」 — ノズル延長による真空中比推力11秒の差
- NASA「Saturn V Flight Manual SA-503」(PDF) — サターンVの重量・推進薬量
- NASA「Waking a Giant: Bringing the Saturn F-1 Engine Back to Life」(PDF) — F-1エンジンの比推力
- JAXA「固体ロケットブースタ SRB-3」 — 真空中比推力 283.6s以上
- JAXA「SRB-A」(エンジン) — SRB-A3 の比推力(真空中)283.6s
- JAXA「H3 Launch Vehicle」(英語) — 全備質量 574 t (without payloads)
- JAXA ファン!ファン!JAXA!「ロケットは何でできているのですか?」 — 第1段で一番大きな部分はタンクであること、アイソグリッド構造